東京工業大学地球環境共創コース 村山研究室

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環境政策・計画分野の村山研究室です。客観的なデータに基づく科学的な合理性と、人々の意識や関心に関連する社会的な合理性をいかに統合するかという点に関心をもって研究を進めています。そのため、利用可能なデータに基づく自由なコミュニケーションから始め、よりよい方策を検討するための様々な立場の人々の間の合意を形成することが考えられます。ただし、多様な立場の人々の意見が完全に一致することは現実的ではないことから、何らかの形で意思決定を行い、それに基づいて政策や計画を進めていくこという流れが考えられます。

こうした一連の流れをイメージしながら研究を進めており、具体的な例としては、環境アセスメントと社会的意思決定、リスク評価と管理、環境・リスクコミュニケーション、政策対話などが挙げられます。特に関心を持っている分野を図に示しました。主な分野を示すキーワードとして、環境、計画・政策、リスクがあり、いずれかの領域に関わる内容を研究対象にしていくことを考えています。

環境・災害リスクの評価と社会的管理

社会には様々な環境・災害リスクが存在しており、科学的な判断だけでは明確な意思決定が困難な事例が増えています。そのため、客観的なデータに基づくリスクの推定を行うとともに、市民のリスク認識を考慮に入れたリスク評価や管理のあり方を検討しています。また、レギュラトリーサイエンスの考え方を取り入れた効果的な規制や制度構築を目指しています。この分野の草分け的な学会である日本リスク学会には博士課程から参加し、2010年度から2019年度まで事務局長として関わり、2020年度から会長を務めています。

研究テーマの例として、以下のものが挙げられます。

  • アスベストをはじめとする個別の物質や発生源を対象とした環境リスクの評価と管理
  • 社会経済的な観点からみたリスク管理のあり方の検討
  • 地域レベルでの多様な環境リスクを考慮した管理の方法論
  • 予防原則や予防的アプローチを考慮したリスク管理のあり方の検討
  • 環境リスク管理の歴史社会的考察
地理情報誌システム(GIS)を用いたベンゼンの年間平均濃度の推定

上記の分野に関連する最近の業績は、次のとおり。

  • 今中厚志(2021)「⽯油コンビナートにおける事故時の地⽅⾃治体の住⺠対応に関する研究」、2021年度博士論文
  • Mondal MSH, Murayama T, Nishikizawa S. Determinants of Household-Level Coping Strategies and Recoveries from Riverine Flood Disasters: Empirical Evidence from the Right Bank of Teesta River, Bangladesh. Climate. 2021; 9(1):4
  • Cai Zhenhong (2021), “An Analysis of Climate-Related Risks Descriptions in Public Released Reports: Case of China’s Shipping and Port Companies”, Master’s thesis
  • 長谷川陽介(2021):「事前津波対策を目的とした地方自治体の庁舎移転の現状と課題 -津波対策特別強化地域を対象として-」、2020年度東京工業大学修士論文
  • 村山武彦(2021):ニューノーマル時代のリスク学を求めて. リスク学研究、30(2), 87-88
  • 今中厚志、村山武彦、錦澤滋雄、長岡篤(2020):化学工場における災害時の地方自治体の避難指示に対する周辺住民の行動 石油コンビナー ト等特別防災区域を対象として. 環境情報科学論文集 Vol. 34 (2020 年度 環境情報科学研究発表大会) (pp. 79-84). 一般社団法人 環境情報科学センター
  • Atsushi Imanaka, Takehiko Murayama, Shigeo Nishikizawa (2018): Current situation and issues on municipalities’ responses for accidents in chemical factories, SRA Asia Conference
  • 飯田裕貴子、村山武彦、錦澤滋雄、長岡篤(2018):自治体によるアスベスト含有建築物の解体改修時における立入り調査の現状分析、第6回石綿問題総合対策研究会
  • Atonius Priyo Nugroho Sulami, Takehiko Murayama, Shigeo Nishikizawa (2018):  Current Issues and Situation of Producer Responsibility in Waste Management in Indonesia, Environment and Natural Resources Journal, 16(1),  70-81
  • Takehiko Murayama, Atsushi Imanaka, Shigeo Nishikizawa (2017): Current Situation of Emergency and Long-term Responses on Community Risks by Chemical Accidents, SRA annual meeting
  • 今中厚志、村山武彦、錦澤滋雄(2017):化学工場における事故時の地方自治体の対応に関する現状と課題、日本リスク研究学会第30回年次大会

環境アセスメントと社会的意思決定

環境アセスメントの基本的な枠組みや評価手法、参加手続きなどの研究を行っており、特に近年は、政策・計画段階から行う戦略的環境アセスメント(SEA)や、新興国を含めた開発援助における環境社会配慮などに焦点をあてています。そのため、国内外の事例調査や、国際協力機構(JICA)をはじめとする国際協力機関の事例に関わりながら、具体的な事例をベースに取り組んでいます。

この分野に関連して、環境省が進めている風量発電や地熱発電などの再生可能エネルギーに関連した施設の立地をを地域の関係者と議論しながら進める適地抽出事業や、環境面や社会面への影響を考慮して風力発電施設の立地の適性をエリアごとに区分するゾーニングシステムのモデル事業に座長として関わりました。これらの取り組みについては、次のサイトを参照してください。

風力発電施設のゾーニングモデル事業の実施地域(出典:環境省)

国際的な取り組みとして、アセスメント分野の国際学会であるInternational Association for Impact Assessment (IAIA)に加わり、2016年に名古屋市の国際会議場で開かれた年次大会では、共同代表として会議の運営に関わりました。また、IAIA日本支部の事務局長して、国内メンバーの情報交換や情報発信をサポートしています。加えて、国際協力機構(JICA)が進める協力事業を対象とした環境社会配慮助言委員会に委員長として関わりました。2019年からIAIAの理事(Director)の財務担当(Treasurer)として役員を務めています。

一方、地熱エネルギーを利用した開発については、温泉をはじめとする伝統的な利用との共生が極めて重要であることことから、関係者他の大学や関係する皆さんとともに地熱ガバナンス研究会という団体を立ち上げ、地域と共生した形でのエネルギーの利用について考えています。この研究会が中心となって、『コミュニティと共生する地熱利用-エネルギー自治のためのプランニングと合意形成』と題する書籍を、学芸出版社から発行する予定です。

地熱発電所の事例(大分県八丁原地熱発電所)

地熱発電所事業者へのヒアリング(福島県柳津西山地熱発電所)

上記の分野に関連する最近の業績は、次のとおり。

  • Shen Chenjian (2021), “”Evaluation of information disclosure and public participation on EIA procedures for offshore wind projects -Case of Zhejiang, China”, Master’s thesis
  • 長島匠、白井威流、村山武彦、長岡篤、錦澤滋雄(2020):地方自治体の地熱開発に対する意向とその関連要因. 環境情報科学論文集 Vol. 34 (2020 年度 環境情報科学研究発表大会) (pp. 281-286). 一般社団法人 環境情報科学センター
  • 長島匠(2018):環境社会影響を考慮した地熱開発ポテンシャルの評価、東京工業大学修士論文
  • Gayatri Chawda (2018): Content analysis of EIA reports in India, Master’s thesis of Tokyo Tech
  • Chanokporn Smuthkalin, Takehiko Murayama, Shigeo Nishikizawa (2018): Evaluation of The Wind Energy Potential of Thailand considering its Environmental and Social Impacts using Geographic Information Systems, International Journal of Renewable Energy Research, 8(1), 575-584
  • 安元彩佳、村山武彦、錦澤滋雄(2017):開発援助によるインフラ整備事業を対象としたモニタリング レポートの傾向分析−アジア開発銀行の融資による道路・鉄道建設事業を対象として−、環境アセスメント学会第16回年次大会
  • 村山武彦(2017):これからの環境アセスメントの課題、環境アセスメント学会誌、15(2)、44-46
  • Nyandaro Mteki, Takehiko Murayama, Shigeo Nishikizawa (2017): Social impacts induced by a development project in Tanzania: a case of airport expansion, Journal of Impact Assessment and Project Appraisal, 35(4), 272-283

環境コミュニケーションと合意形成

環境問題を検討するためには、多様な主体(ステークホルダー)の間で十分なコミュニケーションを図り、社会的な合意形成を目指す必要があります。そのため、特に環境リスクを対象としたコミュニケーションの社会実験を行ってきています。写真は、埼玉県川越市で実施した際の様子です。こうした事例を通じて、政策形成や計画策定のための場の設定やプロセスのデザインを検討しています。最近では、環境省で進められている化学物質と環境に関する政策対話にメンバーとして関わっています。

また、2011年の大震災・原子力災害を受けて、放射性物質をめぐるリスクコミュニケーションにも取り組んでいます。このテーマについては、環境省の環境研究総合推進費の研究プロジェクト(汚染地域の実情を反映した効果的な除染に関するアクション・リサーチ)の一環として進めています。

さらに、廃棄物処理施設をはじめ環境リスクを伴うような迷惑施設の立地選定問題について、科学性と民主性を考慮したアプローチについても、従来より検討を進めています。

研究テーマの例として、以下のものが挙げられます。

  • 個別の工場や事業所を対象とした環境コミュニケーション
  • 地域レベルの多様な発生源を考慮したリスクコミュニケーション
  • 放射線のリスクをめぐる社会影響と自治体レベルのコミュニケーション
  • 化学物質管理を対象とした国レベルの政策対話
  • 科学性と民主性を考慮した廃棄物処理施設の立地選定のあり方
市内における化学物質管理をテーマとしたリスクコミュニケーションの事例
上記の分野に関連する最近の業績は、次のとおり。
  • Takehiko Murayama (2017): Environmental assessment for sustainable development -Case of renewable energy development and consensus building-, The 2nd Asia Conference on Environment and Sustainable Development
  • Noriaki Murase, Takehiko Murayama, Shigeo Nishikizawa, Yuriko Sato (2017): Quantitative analysis of impact of awareness-raising activities on organic solid waste separation behaviour in Balikpapan City, Indonesia, Waste Management & Research, 35(10), pp.1013-1022
  • 村山武彦、高本秀太(2017):福島県周辺の指定廃棄物の処理をめぐる現状と課題―栃木県を中心として、環境と公害、46(4)、9-14
  • 村山武彦(2017):「土壌汚染とリスクコミュニケーション」、『環境情報科学』、46(2)、pp.34-37
  • 上地成就、村山武彦、錦澤滋雄、柴田裕希(2016):「地熱発電開発を巡る紛争の要因分析」、計画行政、39(3)、pp.44-57